美大受験生・デッサン例4種

入試合格者の作例をもとにしたデッサン寸評


構成デッサン
素材−鉛筆  用紙−四つ切り画用紙  制作時間−6時間





●東京芸術大学油画合格 
 (安田女子高校出身)

モノの描写にかかる前に、モチーフから触発された・・・それは目にうつる姿に
限らず、差異・対立・配置・関係・生成・賑わい・グループ化・ねじり・・・といった
任意の項目を形象化する際の支点に置き、そこから発生する構成材料をもとに
して、考案した構図に照らし合わせて制作を進めている。淡く擦れた鉛筆粉の
跡、塗り込んだ箇所、ひねりを加えて強く引いた線、悪ふざけのようなジグザグ
線、勢いよく跳ねた線、鉛筆を寝かせて用紙の凹凸をフロッタージュ(上からこ
する)、一点ずつ鉛筆の先を使ってねじ込む・・・など、行為としては用紙と素材
(鉛筆)の接触にしか過ぎないなかで、無限とも思えるトーンの差を響かせつつ
調和を図っている。

 

石膏デッサン『聖ヨセフ』
素材−木炭  用紙−MBM木炭紙  制作時間−6.5時間




●多摩美術大学油画合格
●市立尾道大学美術合格
 (山口/広瀬高校出身)

人がモノを見るとき、そのモノを知ることが重要であって、「見る」という行為や
「見えている事態」について考えながら見ているわけではない。ところで、モノ
を見て理解しようとする際の視線の動きを思い浮かべると、モノの表面を間断
なく辿りながら見るのではなく、モノ全体の把握に向けて視覚と脳の連携作業
が、ほんの一瞬でカタチの要所を選別してつかむと同時に、一方であまり重要
でない箇所を流して見ていることに思い当たる。作品では、カタチが張り出した
り隆起した部分、光を受けて生々しく現れた面、面の変わり目などが要所とな
り、それ以外の擦り込んだり掃いたりしてぼかした木炭の跡に比べて、明らか
に調子の差が誇張され、変化が劇的であって、それは視線の動きに因んでいる。

 

静物デッサン
素材−鉛筆  用紙−B3画用紙  制作時間−7時間




●広島市立大学デザイン工芸
●東京造形大学デザイン合格
 (崇徳高校出身)

モチーフの固有色はすべて黒っぽい色。球体の材質は発泡スチロール。その
下は厚手の木綿布。左隣はフェルトをシュロ縄で巻き、奥側にガラス瓶が置か
れている。個々の明度差は少ないが、実物は明らかにモノとしての差を見て
取ることができる。そこで、描写に際しては形はもちろんのこと、質感の差が重
要になってくる。実際に見えるモチーフの表面情報をそのまま真似る姿勢も大
切だが、互いの「差」を見極めることが描写への手掛かりとなる。たとえば、指
先が個々のモチーフの表面に触れた際の反応を、つるつる・・ざらざら・・さらさ
ら‥ふわふわ‥ごわごわetc、といったように擬態語化することで、素材(鉛筆)
活用への工夫が生まれてくる。

 

静物デッサン
素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作時間−9時間




●広島市立大学デザイン工芸
●市立尾道大学美術合格
 (ノートルダム清心高校出身)

写実デッサンの善し悪しは、描写に際して、打つ手の数に関わっている。
例えば、透明なガラス瓶を描く場合に、瓶とはいったい何なのかを問う。回
転体の軸は実際には見えないけれど、想定して視れば見えてくる(気がす
る)。瓶の奥や内部にある物は事実として見えているが、瓶の内側にある
空気の固まりや、裏側のガラス面は事実としてあることを想いつつ視ると見
えてくる。正面の丸みを帯びた面も、そこに堅さや張りを持ったつるつるとし
た面があると想うと(近づいて見れば、そこには自分の顔が映っていて、確
かに表面があることが判る)見える。想って視て、そうすることで見えてくる
事柄に対して手を打っていく(描く)と、現実味が出てくる。

comment■Kawano

 

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