石膏デッサン 胸像『ジョルジョ』●描き始め・技法4種

素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作経過時間−1.5時間

   
1.背景を描くことで像を囲む空間を手がかりにする
50×65cmの画用紙を鉛筆の線で埋め尽くすには、芯の消費量と共に時間と労力が要る。
それだけが要因ではないが、鉛筆デッサンの場合、一般的に背景を描かないことが多い。
とは言え、時には背景を描くことで、薄ぼんやりとした空間に白い像が浮かび上がる絵を描
いてみたい気持ちになる。思い切って真っ黒にするのも一興だが、作例では、淡いほのか
な暗さの空間を設定し、はじめに、形の大まかな位置を見計らい、B系の鉛筆を寝せて素
早く塗り込み、その上から布を使って擦り込んでいる。その際、石膏像の明暗差、頭・首・胸
などの位置、隆起した面と裏側へ回り込む部分の差 などを手がかりに、それらと呼応し響き
合う空間をイメージしつつ背景側に手を入れる。全体に渡って用紙に鉛筆を定着させた後、
明るい部分をネリゴムで白く抜き、 空間と石膏の白さのバランスをみる。

 

素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作経過時間−2時間

    
2.明度差の分布をみて最初から暗部を黒く強く描く
いきなり黒く濃く描き始めるのは無謀だとしても、完成した作品には用紙の白から 鉛筆の黒
色に至る調子の幅と豊かさが欠かせない。最初は弱く淡く、次第に濃くしていく方法もあるが、
仕上がった作品を観ると、色が薄く弱々しい場合が多い。加えて、絵は一気に全てを描くことは
不可能である。そこで、描こうとする箇所を見て、その箇所を描く作業を続けることになる。しか
し、部分を見るということは、その部分の明暗に 眼が順応することとなり、結局そこに認めるの
は石膏の白さとなる。結果として、全体の明度対比やバランスが曖昧になってしまう場合も多
い。そうならない為に、石膏像全体を見て、明度差の分布を捉え、明るい部分に比較して暗い
部分を積極的に黒くしてしまう方法がある。そうすることで、中間色の段階が読み取りやすくな
るのも事実だ。但しその方法は、大雑把にせよ黒くする箇所の位置を的確に決めなければならない。

 

素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作経過時間−2時間

   
3.鉛筆を立てて石膏像表面の起伏を辿る
線が石膏像の表面を這って動いたら…その這った跡を辿るように用紙に描き写したら …
作例はそのような設定で描き進めた。また、平面に立体を表現する場合、想像で対象物
の立体を切り、その切断面に現れる輪郭を描き写すという方法もある。どちらにしても、紙
に輪郭で形を囲むのではなく、作者が想像力を駆使して立体物の表面に架空の行為を
加え、そのことによって得られた結果(切った跡や這った跡)を 記録するという描き方であ
る。丸みを帯びた滑らかな面には描く手がかりが見つからない。そんな時、なんとなく紙
の上を鉛筆の線が行き来するだけでは、次第に絵が濁ってくる。それを阻止し、石膏像
表面の現実味を描き出すためには作者側から物体への能動的な働きかけが必要である。
大胆に切り込み、細心の注意を払って視覚的反応を取り込むことが肝要だろう。

 

素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作経過時間−1.5時間

    
4.用紙の凹凸を利用し、線の痕跡に変化をつける
対象物をよく観察し、それを描こうと意欲的に取り組むことがデッサンの基本姿勢と言える。
ところで、対象物をどこに・何で表そうとしているのか、検証する時機がやがて訪れる。道具
の鉛筆には硬軟の違いや削り方に注意を払うようになるが、用紙の硬軟・厚さ・荒さや鉛筆
の付着の度合いも、気になってくる。ふと気付くと、紙と鉛筆の融合が、デッサンを観る人の
頭の中に何らかの反応を引き起こしていることに思い至る。鉛筆の粉が紙の窪みにまで擦
り込まれた状態と、凸部に残っただけの状態は、明度差の違いだけでなく、観る側に石膏
像表面の抵抗感の差や角度差を想起させるのに役立つ。引かれる線の方向も画面と立体
表面の角度を感じさせるが、紙への圧着の強弱差もまたさらに現実味を帯びさせる。デッサ
ンは平面に描くといえども、その用紙は具体的な物であり、その物の特性を利用してこそ作
品というこれまた物の品質が高くなる。


dessin&comment■Kawano

 

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