●制作プロセス 鉛筆・石膏デッサン 『マルス』
素材−鉛筆  用紙−木炭紙判画用紙  制作時間−6時間
130分経過

 画用紙は不透明な白い平面である。これを画面と見立て、その
奥に石膏像を囲む空間を想像する。その空間の中に、石膏像が
立体として存在するイメージを膨らませる。そして、一枚の絵と
しての構想をしっかりと練る。構想を確認するためのスケッチをし、
構図、明暗の配分、鉛筆の調子の組立を検討しておく。描き始め
は、石膏像の頭頂部から顔の中央を通って、首、胸の谷間を
経て台に到る動きを読み、その流れが画面のどの辺りを通るのか
見定める。頭部の位置をにらみながら、像の下部を用紙に描きしるす。
細かな所はすっ飛ばし、大きなポイント間の比例と角度を推量しつつ描く。

2 1.5時間経過

石膏像を画面の長方形枠と同時に見ると、像の輪郭と枠によって
囲まれた背景の図形がよく理解できる。これを手がかりにすると
石膏像の形が捉えやすくなる。少し作業的には面倒だが、思い
きって背景を描くことで、その捉え方を意識的に活用する。背景を
描くことはさらに石膏像と背景の力関係を読む訓練にもなる。
例えば、像の輪郭近くの明部は背景との対比が強く、暗部は弱く
見えるという風に。背景を描かない場合も、この力関係を石膏像側
の描写を通じて作り出すと、余白部分が空間化して見えてくる。
単純に暗部を黒くすることは、この関係が崩れてしまうことになる。

3 3時間経過

石膏像を面で囲まれた立体として捉えると、各々の面は方向や
位置を異にし、隣接する面には境界が現れる(稜線)。光を受け
て各面は稜線を境に明度差が生じる。デッサンは、画面上で像の
プロポーションが的確に計測できれば、それをもとに石膏像の面
の明度差を真似ることによって印象の似た一枚の絵が仕上がる。
ただしこの場合、単なる濃淡の差だけでは、例えば新聞の写真
欄のように立体感の乏しいものになってしまう。そこで、デッサン
は画用紙(支持体)と鉛筆(素材)の合体によってトーン(調子)の
差を造りだし、それらの響き合いによって実在感をめざすことになる。

4 6時間経過 完成

調子の差とは、支持体に素材がしるした(タッチ)痕跡が、めざし
た石膏像の実在性に寄与した度合いと言えます。微妙に凸凹し
た画用紙にどの硬さの鉛筆で、どんな表情の跡形を残すのか、
鋭く引いたり、粗密をつけたり、軽くのせたり、ガリガリと荒らしたり、
重ねたり、こすったり、そんなタッチの差が石膏像の明暗のみ
ならず面の方向や位置を用紙上に具体化させることとなります。
デッサンは立体を平面に造形する学習であると同時に、
はじめに打ち立てた、自作の構想の確認にも大いに役立つでしょう。

dessin&comment■Kawano

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